懺悔

 


 懺悔をする。


 私はさながら「恥の多い生涯を送ってきました」とでも言いだしかねないほど後ろ向きな人種だ。

 しかもそこに加えて性格も悪いもんだから、何せ取り繕いがうまかった。
 本気で悔しいくせに悔しくないふりをして、思ってもいないことを口にして「良い人」になる。

 まぁだから、いい大人になってからボロが出た。

 そのボロに関してはもう本当に関係がないから置いておくけれど、本当に冗談抜きに私は「なんで生きているんだろう」と思っていた。
 そして今までのつけを払うようにしてボロボロになった私が、あれから大分経った今も此処にいるのは、まぁもちろん色々な幸運が重なったからなのだけれど、そのうちの一つの幸運は、どうしたって彼らが視界に飛び込んできたからだ。

 キラキラした目をして、理由もなく惹かれた。

 そしていつの間にか、彼らは私の世界の一部になった。
 一部に、してしまった、私が。

 勝手に一部にしたくせに、勝手に救ってもらったくせに、私は彼らに何も返せやしない。
 ただ、言いようのない思いに口を噤んで、そのくせ抱え込んでおくことも出来なくて、こんな、書いたってどうにもならないところで長々と意味のないことを書き連ねている。

 彼らを擁護したい。本音だけど、それをすると外聞が悪くなるから擁護しない。
 彼らを批判しない。せめてと思って、というか私には何の被害も無いので批判することがないけれど、私一人が口を噤んだってどうにもならない。

 でも、本当は言ったっていいはずだ。
 匿名で、会ったことも無い相手で、目の前にいるわけでもないから好き勝手に中傷することが許されるなら、私だって言ったっていいはずだ。

 私は数年前、20歳になる前に飲酒しました。
 それを私に勧めた先輩は別に悪いことをしようとも思ってなかったろうし、なんなら今も酒飲むし飲ますし煽る。
 「私未成年飲酒しました捕まえてください」って警察に飛び込みたい。でもしない。そんな度胸無いから。

 だからどうってことはない。
 それはただの事実で、なんなら今も仕事の都合上「酒は控えめ、タバコはやめろ」と言った舌の根も乾かぬうちに私は夜に酒を飲む。
 でも詐欺罪じゃ捕まらないし、職場を出た後の私を誰も監視したりしないからバレたことは無い。

 なんて生きやすい世の中だろう。


 彼らは、私と同じ世界に生きていて、同じ人間であるはずなのに、なんて生き辛いのだろう。


 社会的立場、ってなんだ。それって私にはないものなのか。
 私は社会的に立場の無い人間なの。立場が無ければしてよくて、立場があるとしちゃいけないの。
 じゃあそんなもん捨ててしまえ。

 収入の問題、いや、私ならそんな生き辛い立場いくらもらったってごめんだ。

 だから、本当は止められない。彼らが自由になりたいと言ったって、私に止める権利はないはずなのに。

 それでも頑張ってほしい、なんて。私はとんだ我儘でとんだ自分勝手だ。

 許してほしい。

 彼らから目を逸らせない私を。
 頑張ってくれる彼らに甘えて、彼らがどんなことを話してくれて、どんな風に過ごしているのか、面識もない立場も無い私が把握できてしまう「立場」に居続けてくれる彼らを好きだと思ってしまう私を。

「ちょっとー、大丈夫?乗り換えた方がいいんじゃないの?」
「いやーもうちょっとその話今私に振っちゃいますぅ?」

 好奇と揶揄をこめた薄笑いで話を振ってきた同僚に、曖昧に笑って冗談を返すことしかできなかった私を。

 私は最低だ。

 彼らにはそこにいて、生きていてくれと望むくせに、私は闘うことも出来ない。

 怒っているのに。辛いのに。

 私を傷つけているのは彼らでは無く、どうせ私と同じような「社会的立場のない」人たちの言葉なのだと罵ってやりたいのに、おかしなことに私なんかにはないはずの「社会的立場」を気にして、私はそれをしない。


 言葉だけで人が死ぬことがあると、私たちはもう知っているはずなのに。
 みんなどうして平気で人を殺そうとするんだろう。もちろん、私も。

 私の好きなものを徹底的に罵って、何がしたいのだろう。私を消してしまいたいの。
 理屈では無い好きと言う感情は、罵られたところで、どうにもならないのに。
 私にどうしてほしいの。「それでも好きだ」と私が泣きだしたら、どうしてくれるの。


 結局こんなまとまらない散文をまき散らすしかできない私もどうしようもない。
 助けてもらったくせに、外野を気にせずにいることもできず、かといって立ち向かうこともせずに。


 ただ画面の向こうで、毎日私に幸せをくれる彼らに「大好きだよ」と思う事しかできない、弱い私を。


 許してください。